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【要約&書評】<5分でわかる>「ファイナンス思考」 / 朝倉祐介

〈この記事はこんな方におすすめ〉

・朝倉祐介さんの「ファイナンス思考」の感想や要約を知りたい
・PL脳について知りたい
・ファイナンス思考について知りたい

〈この記事によってわかること〉

・書籍の要約
・PL脳に陥ってしまう理由
・ファイナンス思考とは

朝倉祐介さんの「ファイナンス思考」を読んだのでその書評と要約をします。

日本になぜアマゾンは生まれないのか?

日本からアマゾンのように大きくスケール(成長)する企業が輩出されないのはなぜか。なぜバブル崩壊以降、先進的な技術や勤勉な人材を抱えているはずの日本企業が、総じて停滞してしまっているのか。どうすれば、日本から真に社会的インパクトを発揮する企業や新産業を創出することができるのか。

こうした問題意識を出発点に執筆したのが本書です。

日本の経済が低迷して久しく、今やアメリカや中国に比べて大きく差を付けられている印象が否めないですが、最近のスタートアップ界隈でも同様の傾向が見られます。ユニコーンと呼ばれる超巨大な非上場企業の数においても、2017年12月1日の時点で220社のユニコーンが存在し、アメリカ発の企業は109社、中国は59社に対して日本はメルカリ1社のみです。(メルカリはその後2018年6月19日に東証マザーズに上場)

日本は少子高齢化が年々進行していくという構造的問題を抱えているにせよ、それだけではないのでは?というのが朝倉さんの主張です。

「PL脳」という病

PL脳とは?

日本が低成長を続ける理由のひとつ、それが「PL脳」だと朝倉さんは指摘します。「PL脳」とは、目先の売上や利益を最大化することを目的視する、短絡的な思考態度のことです。

「売上や利益を引き上げることこそが経営の目的」という主張は、一見するとそれらしく思える考え方かもしれません。ですが、目先の損益計算書(PL)の数値の改善に汲々としすぎるあまり、大きな構想を描きリスクをとって投資するという積極的な姿勢を欠き、結果として成長に向けた道筋を描くことができていないのが、現在の日本企業ではないでしょうか。

経営者から投資家、従業員やメディアなど、あらゆるところにおいてPL脳に陥ってしまっていることが原因で思い切った一手を打つことができず、縮小型の衰退サイクルが続いていると朝倉さんは考えていらっしゃいます。

上場企業の事業会社で仕事をしていた経験がある私には非常に共感できる内容です。長期的に考えてこうした方が良さそうというアイデアは様々なところから出てきますが、PLが一時的に犠牲になることが多く、また上場しているがゆえに株主などステークホルダーに対しての説明の観点も含めるとなかなか思い切って進められないと感じている人はそれなりに多かったと思います。私の勤めていた会社は経営陣だけでなく上位層が非常に優秀な方たちだったため長期的視野の観点で大胆に意思決定していたように感じます。このように、個人としてのPL脳と会社としてのPL脳は別なので、重要な役割を持つところがPL脳に陥っていなければマクロな視点では上手くいくように思います。

PLは「作れる」

PLは作ることができます。やりすぎるとそれは粉飾決算になりますが、法に触れない範囲でも調整することができるのです。例えば売上が計上されるタイミングに時間差があるような事業の場合、物販業のように出荷した時点で計上される「出荷基準」と、製造業のように検収した時点で計上される「検収基準」などがありますが、これを悪用して通常よりも多めに納品するなどして見せかけの売上を作ることは可能です。また、別の例だとソフトウェアの研究開発を考えてみたとき、人件費はPLに計上されますが製品として販売できるレベルになるとそれはBSに計上されます。このように、どちらも本質的には同じなのですが「見せ方」を操作することができてしまいます。こうした決まりはPL脳をさらに助長してしまっている要因になっていると思います。

PL脳がもたらす本質的な問題

1)黒字事業の売却をためらう

2)時間的価値を加味しない

3)資本コストを無視する

4)事業特有の時間感覚を勘案しない

5)事業特有のリスクを勘案しない

朝倉さんはPL脳がもたらす本質的な問題として上の5つを挙げています。黒字事業の売却は、そこだけを見るとなぜ利益を創出しているのに売却するのかという風になると思いますが、長期的な視点で会社の企業価値を最大化するという観点で見るとその事業が会社にとって必須ではない場合は、高く評価してくれている時に事業を売却した方が売り手にとっても買い手にとっても良いはずです。ところがPL脳の場合は会社の企業価値を最大化するよりも今期のPLを良くするというアプローチで考えてしまうため、黒字であるがゆえに少しでもPLを良くしようとずっと保有し続けてしまいます。価値が目減りしていくと今度は売却したくてもそれが難しくなってしまい、そのまま負債になってしまうことがあるのですね。こうした状況を避けるためには、将来的な会社の企業価値を伸ばすためにはどうするか?という視点で考え意思決定することが重要です。

なぜPL脳に陥ってしまうのか?

なぜ我々はPL脳に陥ってしまうのか?朝倉さんは原因として下記6つを挙げています。

1)高度経済成長期の成功体験

2)役員の高齢化

3)間接金融中心の金融システム

4)PLのわかりやすさ

5)企業情報の開示ルール

6)メディアの影響

高度経済成長期においては現在に比べて変化のスピードはゆるく、PL脳であっても一定の成果を上げることができました。その時の強烈な成功体験がなかなか思考の切り替えができない理由のひとつだと朝倉さんは指摘しています。終身雇用の時代は若い人が安い給料で歳を重ねるごとに給料が上がっていく仕組みなりますが、これは経済が安定的に成長していく前提で成り立つシステムであり、そうならない場合は当然破綻します。マーケットが縮小しているのに成長曲線が変わらないとなると上手くいかなくなるのは目に見えていますよね。

役員が高齢化するというのも、定年までの残りの在任期間をできるだけ穏やかに過ごしたいという人情がPL脳に拍車をかけてしまうでしょう。こうして様々な理由が複合的に重なることで我々は知らず知らずのうちにわかりやすく見栄えの良いPLに意識を奪われてしまうようです。事業会社でも事業の評価は主にPLでおこなわれることが多く、それはつまり「売上は伸びているか、利益は出ているか」というような観点で見られがちです。評価に連動しているとなると個人評価を気にする人にとってはPL脳に陥ってしまっても仕方ないと思う部分もあります。これが長期的な視点で動けるようになると意思決定は変わる気がします。

今こそ身に付けるべき「ファイナンス思考」とは?

PL脳が抱える問題についてはわかりましたが、これに対してどうアプローチすれば良いのでしょうか?それが「ファイナンス思考」です。朝倉さんによると、ファイナンス思考とは、「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」のことです。「会社の戦略の組み立て方」とも言えます。

ファイナンス思考とPL思考の特徴

軸/思考 ファイナンス思考 PL脳
評価軸 企業価値(将来にわたって生み出すキャッシュフローの総量) PL上の数値(売上、利益)
時間軸 長期、未来志向、自発的 四半期、年度など短期、他律的
経営アプローチ 戦略的、逆算型  管理的、調整的

ファイナンス思考では、企業価値を最大化することを目的に思考するため、売上や利益を最大化するということを目的にするわけではありません。何をすれば企業価値が最大化されるのかというのを自ら定義していかなければならないため、主体的な姿勢が求められます。なお、売上や利益を軽視しているわけではないということは注意する必要があります。企業価値が上がるということは結果的にこれらの数値も向上しているはずだからです。

ファイナンスの4つの側面

ところで、「ファイナンス」とは何でしょうか?本書ではファイナンスを以下のように定義しています。

<ファイナンスの定義>

会社の企業価値を最大化するために、
A:事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し、
B:既存の事業・資産から最大限にお金を創出し、
C:築いた資産(お金を含む)を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配し、
D:その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する
という一連の活動

BSの右側はどうやってお金を集めたか、左側は集めたお金をどう使ったかということを示していますが、これらのバランスを健全にコントロールしながら段階的により多くのお金を生み出す仕組みを作ることがファイナンスの本質だと朝倉さんは説いています。

資金調達をデットファイナンス(負債)かエクイティファイナンス(資本調達)にするのか、得たお金を何に使うのかなど、置かれた状況や取るべき戦略にとって異なってくるはずです。それを最適化していく一連の活動そのものがファイナンスという言葉には詰まっているわけです。ファイナンスと聞くとAの要素が強く思い浮かぶことが多いと思いますが、Bの要素も非常に重要なので実際に仕事をしている人は多くの人が実はファイナンスに関わっているということは個人的にハッとさせられたところでした。お金は調達するだけではなく創出することもできるという当たり前のことなのですが、ファイナンスという観点で捉えるといつもとは違った見方ができるようになります。

まとめ

PL脳から脱却してファイナンス思考で物事を判断するようになれば長期的にその価値を最大化できる確率が高くなることがわかりました。これは企業だけでなく個人についても同様のことが言えるのではないでしょうか?つまり、個人に対しても同様に考えて、目先の利益よりも今やっていること(やろうとしていること)が長期的に自身の価値を上げることにつながるのかどうかという視点で日々取り組むと3年後、5年後、10年後に振り返った時に大きな差になっているのではと思いました。短期的な利益を軽視するのではなく、最終的には総合的なバランスが大事にしながら、あらゆるものに対してファイナンス思考を応用することで世の中に対してより良い差分をきっと生み出せるはずです。

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MASAYOSHI MURAYAMA
MASAYOSHI MURAYAMA
■プロフィール:「ユニークをスタンダードにする」がミッション。社会における人々の役割の最適化と居場所づくりを目指して、経験と実績にもとづいた【成果につながる】デジタルマーケティング教育とメンタリングを軸にしたキャリアデザインやコミュニティ運営をおこなっています。■略歴:大学卒業後IT企業でデジタルマーケターとしてのキャリアをスタートし、東証一部上場の大手クライアント(BtoB)の目標を12ヶ月連続で達成。その後株式会社エス・エム・エスにて新規事業(BtoC)のマーケティングを担当し1年で利益を2倍以上に増やし黒字化に貢献。その後同事業の責任者になると同時に別の新規事業(BtoC)の立ち上げもおこなう。2018年11月ユニスタ株式会社を創業。
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